golden-luckyの日記

ツイッターより長くなるやつ

技術書の技術を軸に技術書について想いを馳せた話

ここでいう「技術書」というのは、「IT系の技術周辺を扱った本」のこと。この意味における「技術書」の界隈では、近年、「技術書典」という同人誌即売イベントが年二回のペースで開催されている。これは文字通りの祭「典」で、わずか6時間という短い開場時間に、数百人からなる同人誌の書き手とその作品を貴ぶ1万人の買い手が集結する。

IT系の技術ではソフトウェアが占める役割が大きく、ソフトウェアというのは技術的な変化が激しい。そのため、技術に関する情報を伝える手段にも、俊敏性とか即応性が求められる。紙の書籍というのは、一般にはそういう性能が低い、リジッドなパッケージである。それなのに紙の同人誌が技術情報の手段として尊ばれるのは、一見すると不思議な現象ではる。技術情報のアウトプットが目的であれば、自分ではてなブログに書いたり、Qiitaに書いたりでいいのでは?

にもかかわらず同人誌の書き手と読み手が尽きないということは、何かしら「本のようなパッケージに拘る理由」があるはず。そして、「本のようなパッケージ」という実体があるなら、それを実体ならしめている技術があるはず、ということで、同人誌を頒布してる人、商業出版してる人、どっちともつかないけど明らかに界隈の人、などが集まって言いたいことを言うパネルセッションの機会をCROSSを主催している方々からいただいた。

cross-party.connpass.com

というわけで、以降はこのイベント後半のパネルディスカッション「技術書を作るテクニック」の個人的な振り返り。

個人的に親交がある人から見ると「おまえ本当に司会やるの大丈夫か?」と心配されるような座組。

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写真でみるとモデレーターっぽい(万井さんよい写真ありがとうございます)。

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さて、お題は「技術書の技術」なんだけど、そんなフワフワなテーマで実のある話ができるわけもない。そこで、技術書典6の直後ということもあり、同人誌と商業誌の境界をパネラーに攻めてもらうという方針でやることにした。議論のためのフレームとして「本というパッケージを作って読者の手に届く状態にする」までの各段階における技術論を骨組みにすれば、「技術書の技術」というお題からもそんなに外れないよね、という理屈。

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パネラーのみなさんにこの方針をなんとなく伝えたのは前日で、それもgistに書いた趣旨を送りつけて「当日よろしく」ってしただけだったので、当日はそれぞれの視点から興味深い意見やエピソードを的確に投下してもらえてとても助かりました。ありがとうございました。

とはいえ、制作ツールの話を期待されていた方にとっては、この方針はもしかすると期待はずれだったかもしれない。でも、ぶっちゃけ制作ツールについては、商業だから特別製ということも、同人だから新しいツールを実験できるということもなくて、どっちもすでに似たような環境が利用可能である。もちろん、パネラーの花谷さんから意見が出たように、ツールまわりの知見の入手しやすさとかは同人では壁があるのかもしれないし、実際、そればっかりやってる人間が関与してる商業出版のほうが強い。プロゆえの使いこなしとかもあるだろう。それでも、同じツールを使って「本っぽいもの」にすること自体はかなりたやすくなってるので、その点で同人と商業に本質的な差はないと思うんだよなあ(本質とは?)。

むしろ、制作ツールの外の技術にも議論のフレームを広げておいたことで、「ネタ出しの部分は(技術書だと)もはや出版社の中の編集者には無理」という見解を会場にいたインプレスR&Dの山城さんから引き出せたりしたから、まあまあよかったのかなと思っている(ちなみに個人的にはその見解とは逆の見解を持っている)。あと、ニュートラルに本と出会える場としての「書店」の意味(パネラー鈴木さん)とか、気軽なアウトプットの場のオルタナとしてQrunchの話がでてきたり(パネラー和田さん)とか。

あ、細かい話題については拾っている余裕がないので、togetter(長い)をご覧ください。

togetter.com

なんだかなんだいって全体の大きな話の流れとして、技術情報のアウトプットしやすさもインプットしやすさも「本っぽいやつ」はバランスが取れてて強いよね、というトーンがあったと思う。しかし、「本っぽさ」を超える技術を手に入れて進みたいよね、それが電子書籍っていう感じでもないのが残念だよね、という話もちゃんとできた。このあたりの話題はパネラーに高橋さんがいたおかげもあって浮ついた話にならず、ほんとうによかった。

結局、技術書については、同人と商業に(技術的な視点から)境界を見出す必要はない。それはいまの実体をみてもそう。その中間のグレーゾーンにおける取り組みが広がりつつある。

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そして技術的な視点を別にしても同人と商業の境界を見出すことにはそれほど意味はないし、歴史的にも商業出版みたいな概念が同人から分離していた期間はそれほどないよね、書きたい人が書いて、読みたい人が読む、それが経済になるなら、そのために必要なお金を回す仕組みを作る、そのひとつとして技術書典なりグレーゾーンでの活動なりがいろいろ登場するのではないか、みたいな話でいい感じに収まったような気がする。日高さんもパネラーとしてTechBoosterや技術書典はその中間を滑らかにつなぐんだっていってたし。個人的には、こういう揺り戻しをぼくらはいまリアルタイムで見ているところなのかな、と改めて思った。

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パネラーのみなさま、会場のみなさま、特に議論に参加していただいたみなさま、CROSSのみなさま、刺激的な機会をいただき、本当にありがとうございました。