golden-luckyの日記

ツイッターより長くなるやつ

直販サイトを作って書籍を売ること

昨日までこのアドベントカレンダーでは、PDFの内部の話から始めて、XMLという構造化文書の話、Pandocで記法を変換する話、EPUBで本というパッケージを作る話というように、徐々にレイヤを上げてきました。今日と明日はさらにレイヤを上げて、出版社の立場の話で締めくくろうと思います。

現在、日本の出版事業の中心は、「版元」「取次」「書店」という3者(いわゆる業界三者)が担っています。 メーカーと小売りの間に卸しがいるという構造は特別なものではありませんが、業界三者がちょっとだけ他と違うところがあるとしたら、書店と版元との柔軟な直接取引が少なく、取次-書店間、取次-版元間での委託取引が中心になっていることです。 この構造を支えているひとつの柱は再販価格維持制度による書籍の定価販売なんですが、この構造のおかげで、日本はかなり書店の数が多い国であり続けました。 2000年代初頭には全国で2万店くらいの本屋さんがあったようです(参考)。 米国の書店数も同じころにやはり2万店くらいだったらしいので(参考)、ほんとに本屋さんいっぱいあったんだなあ、という気持ちです。 いまは12000店を下回っているようなので、この20年で6割くらい、たぶん平成の間に1万店以上の書店が全国から消えたことになりそうです。

書店が少なくなったということは、当然、本を売る場所が減っています。 その一方で、新刊の発行点数は、同じ期間に毎年最大で3%ずつくらいの増加傾向にあります(参考)。 売る場所が少なくなったのに、新しく売るものの数が増えているということで、いろいろ嫌な想像が働いてしまいますよね。 ただ、少なくともこれだけはいえると思います。 読者の立場で考えたとき、「ふらっと書店に出かけてそこでたまたま1冊の本に巡り合う」といった機会は、じりじりと得難い貴重な体験になってきているのです。

そんな中で新しい出版社を立ち上げることにした当社では、書籍の主な販売チャネルとして「自社運用の直販サイト」を前提にした事業計画を立てています。 本当は取次さん経由で書店店頭でも買ってもらいやすくしたいとは常々思っているのですが、営業の専任がいないこともあって、この直販サイトで読者の皆さんから注文を頂く、つまり「小売業」が事業の中核です。

幸い、直販サイトを自分で立ち上げて小売業をするのは本当に簡単な時代になりました。 いろいろな選択肢があると思いますが、当社はShopifyを採用しました。 直販サイトをオープンした直後の2017年3月にカナダ大使館で「日本初のShopifyミートアップ」に参加した記憶があるので、ちょうどShopifyが日本市場に本腰を入れようとしていたころでもあったみたいです。 最近は山手線の車内でもShopifyのCMを見かけるので、ちょっとどきどきしています。

Shopifyのよいところ

Shopifyを採用した最大の理由は、APIが公開されていて自分でアプリケーションサーバを作れることです。 当社では、電子書籍を売りっぱなしにするのでなくアップデート版の継続提供などもしたいと考えていたのですが、そういう仕組みを最初から持っている小売サイトのためのプラットフォームはあまりありません。 そのため、販売サイトのガワのデザインだけでなく必要なアプリまで自分たちで作れるShopifyが魅力的でした。 むしろガワのデザインをへんに凝るつもりはなかったので、デフォルトでそれなりに満足できるのがありがたかったです。

あと、これは使ってから気づいたのですが、バックオフィスのための管理画面がものすごくよくできています。 いまはぼく自身が発注作業をすることはなくて、バックオフィス業務は共同経営者にお任せなのですが、管理画面が玄人向けすぎるとそうもいかなかったはずです。

さらに、Amazon PayやGoogle Payに早期から対応してきたこと(Apple Payも利用できるけどトラブルが多いので停止中)、手数料がお値打ちなPayment Gatewayが利用可能になったこと(実質Stripeで手数料が安いのはまじでありがたい)、コンビニ振込のKOMOJUに対応していて現金指向のお客さんもサポートできること、振込サイクルが1週間なこと、クレカ詐欺の検知機能(ちょっとシビアすぎる気もするけど)など、書籍のように単価が低い商品で小売をやっている当社のような立場にとって切実な点で地味にありがたい設計になっているのも助かっています。

Shopifyにがんばってほしいところ

いろいろあるといえばあるんですが、チェックアウト画面のデザインがたまに崩壊するようなので直ってほしい(チェックアウトまわりは欧州対応のために画面構成をユーザがいじれない)。あと、APIタイムアウトがWeb経由だと厳しい(ぼくだけが使うものはCLIでいいんだけど)。そういう細かい点くらいで、大きな不便は思いつかない気がします。

できればこのままWebの雰囲気に十分なじんでいる出店者にとって使い勝手がよいサービスであり続けてほしいです。

謝辞

これまで当社のサイトでお買い物をしていただけたすべての皆さま、物流をお願いしている明和流通システムの皆さま、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

Shopifyがないとやっていけないので、ShopifyとShopifyを支えているRubyおよびRailsの開発者の皆さまには本当にありがとうございます。

最後に、当社の直販サイトの使い勝手やワーディングに何らかの良さがあったとしたら、立ち上げ前から今に至るまで折に触れて @miwa719 さんと @m_seki さんから有益なテストとフィードバックを頂いているおかげです。あのチームすごい。