golden-luckyの日記

ツイッターより長くなるやつ

立ち上げのころからよく知っている電子書籍の出版社直販サイトが昨日で販売を中止し、ハードDRMがかかっていないPDFが主な商品だったので購入済みの本が読めなくなるということは原則としてないんだけど、しばらくしたら購入済みの本のダウンロードもできなくなるので、保存していたハードディスクが飛ぶなどしてバックアップもなけば事実上再入手は困難になる。

このような状況になること自体は、同じような出版社直販サイトをやっている人間として言うべきことでないのは承知のうえだけど、ある程度は仕方がないことだと考えている。というか、そうした事業継続が困難になるリスクをゼロにしようとしていたら、何も始められない。ぶっこんで本を作って売っているので買ってください、と言い続けるだけである。買ってください。

www.lambdanote.com

で、こういう話があってもなくても常に考えてる問題として、完全に平のデータをダウンロードできる電子書籍販売サービスとするか、それともハードにせよソフトにせよ何らかのDRMを設定するかという話がある。ラムダノートでは、FAQにもあるように、PDFの各ページに購入ごとに一意なIDを挿入している。メールアドレスのような第三者が個人を識別できるプライバシー情報ではなく、購入時に生成しているハッシュデータで、社内からだけは逆引きができる。幸い、したことはない。本を読むじゃまにならないよう、リーダーでは不可視にしているので、あえて文字列選択とかしないと見えない。このようなソフトDRMの仕組みをいれることにした背景は2つあって、1つには海外の版権を買うときに「なんらかの電子的な流出防止策を講じること」という条項が含まれるケースで過去に苦労したというのと、もう1つは、そうした仕組みを用意しないで済ませることで、「自分たちは出版社として権利が設定された商品を書いてもらい、それを販売している」という意識が弱まっていくのが怖かったから。何事も、実装や運用を楽にするのって、自分たちの仕事に対する意識を弱めた結果であるとしたら、あとは落ちる一方だなという気がしている。

これって、最近の仮想通貨取引所とかの話に近いものがあるかもしれないなあとも思う(技術的にはよほど単純な話だけど)。そう考えると、単方向ハッシュ文字列をページに入れるんじゃなく、ブロックチェーンを応用すれば、完全に個人のものになる権利保護ありの電子商品購入という体験をプライバシーの問題を引き起こさずに提供できるはずだという方向に妄想が広がる。すでにそういう技術開発をしているところはあるっぽいので、妄想じゃないな。弊社のいまの体力を考えれば妄想だけど。

妄想ついでに、完全に個人のものになる権利保護ありの電子商品を販売するのが「出版の未来」なのかという疑問に対して出版社としてどう取り組むべきかが年々わからなくなるという話があって、実際、O'Reilly Mediaは、完全にそういう「出版の未来」を見捨ててしまった。代わりに彼らがやっている会員制の電子図書館は、個人的にはとても魅力的なサービスなんだけど、このまま日本でも商売になるかは微妙な気がしている。年4万円は、やっぱり個人向けにはかなり敷居が高い。すべての電子書籍は、ブラウザの画面ではなくKindle Oasisで読みたい。そんなふうに個人的な要求から整理していくと、とてもいまあるパーツを組み合わせて正解を出せるような気がしないのでした。